Seafastening

重量物船 3.貨物の保定

われら海族
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前頁でも少々触れましたが、ondeckに貨物の脚を直接溶接するなどをしてはいけません。船が激しく揺れますと、ハッチカバーの天板がめくれて貨物は転倒します。これに変わるものとして、ストッパーやラッシング(これらを総称してセキュアリング、またはシーファスニング:保定や固縛という。重量物には主にseafasteningを用いることが多い)を施します。これらの数を増せば増すほど貨物は頑丈に固定されますね。(Stopper やD-ringは必ず強度部材上に溶接すること)
かといって、船が逆さまになっても積載した貨物がぶらさがっているなどの固縛は意味がなく、強固過ぎる保定も同様に経済性がありません。こういったところで、保定には適切な数量というものがあります。規則的な妥協点とも言えます。
バースタームで常にシングルデッカーの鋼材などしかやっていないフォアマンやポートキャプテンに、孤立の重量物や切り積み等を保定させると、結構どんぶり勘定的にラッシングを施したりしますけど、航海中に貨物を移動させないためには、それなりの根拠がなければなりません。事故の責任を問われます。
ここではそれについて説明します。

重量物の移動事故が起こるのは、以下二つの場合に限られます。
1)保定根拠以上の荒天域を航海した。
2)荒天避航の航路選定にそぐわない保定であった。
*一般雑貨とは異なり、重量物においては固縛方法がほぼ確立(以下に示す)されていることから、その認識不足によって事故を招くことはまずない。

1.重量物を保定するには二つの方法がある。
重量物は通常、孤立/単独に保定する。本船の動揺によって貨物にかかる加速度に耐えさせるという考え方です。また、貨物の形状や、それに設置された保定部の有無などもその選定条件と成り得る。
Lashingによる方法 Stopperによる方法
重要なのは、Lashingと、Stopper の合力で計算しないということです。例えば、加速度によるExternal Forceが100tとなった場合、Lashingで50t、残りの50tをStopperで留めようか、とはしません。それは、LashingとStopper の効き始めるタイミングが異なるからです。ラッシングは摩擦抵抗と同時に作用しますが、ストッパーは摩擦抵抗が無くなって滑り始める瞬間から効き(当たり)始めます。合力で計算していても、ラッシングが飛んだあと、ストッパーが残っているだけでは、貨物を止める力としては不足してしまいますね。
では、摩擦抵抗をゼロとして考えれば、同時に効くと考えれるかという議論ですが、物には必ず摩擦抵抗がありますし、ラッシングに使用するワイヤーやチェーンの伸縮性/弾性は、ストッパーが受けるの曲げ、せん断などとは耐性の計算が異なりますから、やはり「合力で計算しない」というのが道理かと、私は考えます。
「いや違う!合力でいいんだ!」という方はいます。しかし論破してもらったことがない。

またChain Lashingと、Wire Lashingの混合(Mix)がいけないのも同様の理由です。(Wire + Chain + Turnbuckleのセットがだめなのではありません。これならこればっかりで。Wire + Turnbuckleのセットならこればっかりで。と、言う意味)

*ラッシングで保定する場合はスライディングと、転倒モーメント双方を担うことになりますが、Stopperで保定する場合は、転倒モーメントを別に対応せねばなりませんから、そのためのラッシングは何本か必要になってきます。


その他の注意事項
For Lashing
1)重量物にコードストラップは、不可
2)単体Lashingで4本は不可。(1本切れるとお陀仏) 6本または8本に増量
3)メタルタッチはないか?(ウエス、バーラップ、ダンネージ)
4)15t以上のHeavy Caseは、Stopperを推奨する。底と貨物とのgapはSling径の2倍以上あるのが理想、なければDunnageで底上げ。
5)ケースの場合、隣との隙間に注意し、Leading Ropeは必要ないか?
6)雑Shackle、雑Turnbuckleを使用していないか?BL20t(社の規定item)を使用しているか?
 (片付けの際に混じってしまって、Lashier がそのまま使用してしまう。)
     

7)円柱形重量物へのRound Lashingで片締めになっていないか?
     

For Stopper & D-ring
1)Stopperは基本的に全周溶接。効く方向は出来るだけ長く。
  Stopperの剪断力は「のど厚 x 溶接長さ」の面積である。計算通りの強度を得なければならない。
2)ポンツンの隙間から火花(spark)が下に落ちていないか。Fire Proof Carbon Clothの使用
3)強度部材(例えばTransbeam)上に溶接を施しているか?(薄い天板上に設置してはだめ)
4)溶接自体の出来・程度は?
5)使用Stopperは指示したサイズのものになっているか?H-beamの設置方向はよいか?
  設置方向によって断面係数が異なるので、計算通りの強度を得られない。
6)本船のみの溶接員で足りるか?(出帆時間考慮) 陸上手配は不要か?
7)FOタンク付近で溶接やガスカットをしていないか?


D-ringやStopper取り外しでの大事故発生
Securingのために取り付けたD-ringやStopperは、揚げ切りから積地入港までにまず90%以上Remove(取り外す)しなければならない。次の積荷にために邪魔になるからです。このときはグラインダーにレジノイドを付けて切るか、ガスカットします。

私が勤めていた会社では、主に船員によるガスカットを行っていましたが、あるとき中甲板ポンツンにつけたH-beam stopperを溶断中に爆発事故が起こり、2/Eが死亡しました。以降、全船グラインダーカットに切り替えています。
燃焼の三要素は、可燃物、火源、酸素と有名です。爆発には、組成、圧力、温度が重要です。化学反応が音速で連鎖していき、急激な膨張が圧力上昇を起こして、これが爆発音と破壊を生む。大きなエネルギーとなるのですね。
ガスカットによる爆発がなぜ起こったのか、気体の組成が何だったのか、親会社や公的防災機関、大学の先生も加わって調査研究しましたが、爆発に直接かかわるような気体の検出はされなかった。ポンツンは太鼓張りでしたので、その中でペンキなどの物質が燃焼ガスに変化したか、溶断のアセチレンガスと反応したのかもしれない程度で、結局はよくわからなかったというのが実情です。

しかしながら、ドックや有名外資系重量物船社などにインタビューしますと、密閉区画に溶断・溶接等を行うのは論外だとのことで、あって然るべき事故だったように言われた。用途に見合あった構造でなかったこと自体大きな問題だが、ガスフリーを行わなかった使用者の認識不足も否めない。

いずれにしろ無知とはこれほどまでに恐ろしい。重量物扱いも然り十分ご注意願いたい。


2.重量物を保定するには根拠が必要。
そもそも、平穏な海上だけを航海するのであれば、Securingなど施さなくても貨物は移動しないが、航海中なにが起こるかわからないから固縛が必要になる。貨物の移動や荷崩れは単に貨物損傷だけではなく堪航性に支障をきたす。さて、それではどのような保定根拠を以て、LashingやStopperの数量を決定しているのでしょうか?

何度も説明のとおり、過度の保定は経済性がない。かといって自然相手の船に動揺はつきものである。 妥協点が必要です。概算では、片舷30°以上揺らさないと仮定した場合、その貨物にかかる外力(加速度等)は、経験上だいたい L/Hで0.5G(貨物重量x50%)、T/Dで0.6G、O/Dで0.7G となるからそれに見合うLashingを施せばよい。作業確認ではこれを目途に現場を歩いたりするが、しかし、これでは全く公に認められたものでもなく、なんの根拠にもならない。(荷主からは、保定の計算書を要求され、船社はこれを拒めない。)


そこで、多くの船会社が採用し、これをクリアーしていれば荷主も納得、保険上の 責任の中にもある指針がある。それがIMO Cargo Stowage & Securing Code.のANNEX13(付属13)である。揺れによる加速度を計算して対処する方法となる。

・External Force < Lashing 資材のCS x 本数
 が成り立てば、貨物は動かない。
Eternal Force = 貨物重量x 加速度+Wind load + Sloshing ? 摩擦力
  Ondeck cargoのみ→Wind load: 面積 x 0.1、Sloshing: 2 x 貨物巾長さx 0.1
CS (Calculated Strength)= MSL / 1.35 (係数)
  MSL( Maximum securing load)=資材のBL(Breaking Load) x 50%
  *SWLは BL / 安全率(日本では6を採用することが多い。) で、MSL≠SWL

現在ニューバージョンの alternativeというものが主流で、advanceよりもLashing数は間引ける。
ただ、このAnnex13中には、Stopperについて触れられていないため、加速度算出はこのままに、それに よって生じる曲げモーメントと、せん断応力を別解析して、ロイドやNK船級の許容応力以内となるように 設置しなければ、事故が起こったとき問題となる。
GL & NK基準では、

・Shearing stress max 0.85t/cm2 (8.34kN/cm2)
  External Force(摩擦力を減じない) / 溶接総面積(迫n接長さxのど厚)

・Bending stress max 1.40t/cm2(13.73kN/cm2)
  External Force(摩擦力を減じない)x impact高さ=Bending moment
  Bending moment / 断面係数(section module)=Bending stress

・Combined stress max 1.60t/cm2(15.70kN/cm2)

     *但し、軸応力は0と考えられる。

転倒モーメント(Tipping moment)
Lashingで貨物を固縛する場合は、同時にTipping momentも抑えてしまうが、Stopperで静止させる場合は、Tipping momentを防ぐ最低限のLashingをとる必要がある。
Tipping moment= Transverse foce x C.O.G. < Skid/2 x weight + α
が成り立つようにα分のlashingを施す。(縦方向のTippingは考慮の必要がない。)


IMO CSS CODE ANNEX13の日本語訳(解説付き)by よってまん 
(これは参考にとどめて下さい。原文はご自分で訳すことをお勧めします。)

IMO CSS ANNEX13指針に沿ったソフトは、フリーソフトのLashconが有名ですが、それにはストッパーの計算機能がありません。
上図のソフトは、私が作りました ラッシングとストッパー双方の計算を備えたものです。欲しい方は、要相談。indexページのメールから身分照会をして下さい。ただし、事情によりお譲りできない場合もありますのでご了承ください。

貨物事故の原因

先にも述べた通り、鋼材や雑貨、重量物で貨物事故がある場合、そのほとんどが、航路選定のミスか、船長の操船ミス(30度以上揺らす)である。左写真のように揺らせれてはどうしようもない。

(但し、経済性を無視し、30度以上揺れても意図的に耐性を保つ保定をできない訳ではない)


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