実用 横傾斜計算

われら海族
 INDEX


縦方向の変化ときたら、次は横方向である。横傾斜θはGMに由来する。

内航乗船時に、こういう経験をしたことがある。
ブルドーザーのブレードの角が当たってNo.4BWTのホッパータンク部に小さな穴が開いた。これを調査するために「この左舷タンクを空にせよ」と船長がQ/Mに言ったが、「何度くらい傾きますか?」と返されて船長は「5〜10度だろう。」と平気で答えた。
なんと大雑把な? 碇泊中に5度も傾斜すれば、船内生活に支障をきたす。そうなれば当然反対舷のタンクも引いて傾斜を緩和しなければならない。また、結果は後に明らかになり、見当はずれな発言は、船長としての資質を疑われかねないので気を付けたい。

本船の船腹は19m、動揺周期は短くBallast時には7.0secである。実測GM(近似値)を得る有名な公式


から、GM = 0.64・B2 / T2 =(0.8B / T)2で、GM4.7mが得られる。No.4BWT Starb’d 250t、その重心位置は船腹の1/4と考えられ、Displacementは5000tであった。これらを

tanθ = w・l / GM・W
w : weight   l : 船体中央から正横水平距離   W : Displacement

代入すれば、θ= 2.8°となる。これぐらいなら少々不便ではあるが短時間において我慢できる。こういったことを簡易的に暗算するには以下のような表を作成しておくとよい。今回はサンプルとして便宜的にLaden、Ballastの2パターンとしたが、通常は貨物が半分残ったような状態のものとしておくとさらに便利だ。


バルクカーゴでは、積地の積み切り時、またはファーストポート、セカンドポートでの揚切り時に、必ず貨物上面をトリミングして均す。大きな目的は船をUprightに保って航行したいからに他ならない。トリミングは二つに区別できる。
@ 荷崩れを防ぐためブルドーザーでサイドを崩してフラットにする。
A バケットで右舷から左舷、または左舷から右舷へ貨物移動をさせてHeel(またはlistingという)を無くす。
クリノメーター指示でも、Draftでも構わないが兎に角、Heelを無くすためForemanにAを頼まなければならない。(揚げて傾き、積んでさらに傾くのだから、短時間で効果大。)
そして必ず返答される「何回ぐらい?」と。
二流の航海士はクリノメーターを見ながら、「まだですねもう1回」、「もう1回」などとは、これもまた恰好が悪い。普通はどうやるかというと、


例えばDraftが左右で20cm違うとして、船幅20mなら tan-1θで0.6°傾いていることになる。上表から5tバケットなら、左で5t掴んで0.05°、右に下ろしてさらに0.05°傾きを直すから、1回で0.1°と傾きを回復させ、6回でUprightとなることがわかる。
「5〜6回お願いしますよ」
で、スマートです。フォアマンやステベの仲間にしても、何回やるかわからんのをやらされるより、ずっと納得しやすい。


作者著書