海賊対策(アデン湾)

われら海族
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国際海事局IMB発表によると、全世界で海賊被害件数は2008年が293件、2011年が439件、2014年が245件となっている。
2008年の海賊事件の内訳は、アジア地域が70件(内インドネシア28件)、ナイジェリア沖(ギニア湾)40件、そしてもっとも多かったのがソマリア沖の111件(紅海・アデン湾92件&ソマリア東岸沖19件)であった。2014年はギニア湾で41件、アデン湾を含むアラビア海周辺での海賊行為は11件、一方東南アジア地域は増えて141件となっている。アデン湾及びアラビア海は近年、アデン湾国際推奨通航回廊(IRTC) における連合軍の護衛活動やUKMTOやMSCHOAの監視活動、民間武装団体の乗船など海賊対策を講じていることが功を奏しているに間違いないが、世界の情勢によりまたこれがどう変化するかも知れません。

アラビア海の航海や、マラッカ・シンガポールに限らず、用船者が指示する航海を、船主は基本的には拒めない。(紛争地は別)傭船契約にそう書いているからに他ならない。
HRA(High Risk Area)を航行する場合において、商船が武装警備員を同乗させる場合、その経費は非常に高額となる。船主と運航者が話し合いによりその割合を決定することが多いようだ。

また、CITADELの設置にかかる資材費&工賃などは、船員の生命を守る設備は船主の責任範疇であるという観点から船主が全額負担するのが建前の様だが、こちらも百万単位の高額となるため、何%かを運航者が受け持つこともある。Razer wireなどの消耗品は運航者が運航費として計上する。

海賊が発生する地域を航海する場合には、船舶保安評価(SSA)及び船舶保安計画(SSP)の再検討が必要です。また、アデン湾の航行などにはIMO(国際海事機関)が推奨するBMP(ベストマネージメントプラクティス)があって、ソマリア海賊を防止する行動をまとめています。BMP4の内容骨子は以下の通り。
BMP4
1)
ハイリスクエリアの設定
海賊の出没・被害状況、海軍の活動状況、季節要因等を鑑み、BMP4に南緯10°東経78°などハイリスクエリアが設定されているが、各社でも各船の船種、スピード、乾舷などにより独自のエリアを設定している。

2)EUNAVFORソマリア欧州連合海軍が運営する海上警備センター MSCHOA (MARINE SECURITY CENTRE HORN OF AFRICA 通称「アフリカの角」)への登録
通常は運航者がweb登録する。web最新情報を閲覧できる。IRTCグループトランジットや、Convoyエスコートの利用が可能となる。

3)UKMTOへの報告
UKMTO(United Kingdom Maritime Trade Operation:英国海軍諜報機関) は、各国艦船と、通過する商船との接触を助ける。スエズを北端として、南緯10度線および東経78 度線によって区切られる海域)に入域する船は、UKMTO 船位通報様式-初期報告-を確実に送らなければならない。以降、08:00(GMT)に電子メールにより定時報告、最終報告(出域するとき)を行う。

4)IRTCグループトランジットを行うか、各国艦船の護衛を選ぶ。
アデン湾内 IRTC (Internationally Recommended Transit Corridor) のPoint "A" ( 11°50'N 045°00'E) Point "B" ( 14°'28'N 053°'00'E)のうち、最も海賊の襲撃が多い地点である東経47°〜49°の区間は特に軍艦等により集中監視されているが、より安全を期すため、ここを全ての船舶が夜間に収束して航行するよう最大速力ごと船団を組んで出発するよう時間が設定されている。これをグループトランジットと言うが、同速力船が必ずしも複数積集まるとは限らない欠点がある。最悪1隻で出発となることもある。
乾舷が10m以上、速力が18kn’t以上の船で海賊被害を回避できる可能性が高いとされているのでグループトランジットをとることが多いが、それ以外の船(ハイリスク船)は艦船の護衛(convoyエスコート)を選ぶ。この場合は、ETAから利用可能な軍艦を考慮し、それら各国のapplication formを入手してe-mailで申し込む。これらはMSCHOAのwebサイトから運航者が行う。
双方、集合ポイントに遅れないようまた、そこで待機(速力がないことは海賊に狙われやすい)することがないようにしなければならない。

5)船舶防護手段
海賊が乗り込まないための、見張りの強化、アクセスコントロール、レーザーワイヤーの設置、放水、操船、訓練、照明、籠城などの、効果的な基本方法を説いています。

6)海賊の侵入を輸した場合
VHF16chでメーデー、DSCで遭難信号を送り、CITADEで籠城する。

CITADELの設置
海賊は舷側または船尾より乗船し、居住区に侵入して人質を取りその船を制圧します。しかしながら、船内に侵入しても、人質さえ取られなければ、船用金や私物を強奪されても船を乗っ取られることはありません。乗組員はCITADELに逃げ込んだ後、衛星電話を利用して、船社、UKMTOなどに連絡をとり、救助を待つのです。
海賊は、乗船後、ハウス回り下層のドアから侵入を試みますが、水密戸のハンドルレバーを回しても外からドアが開かないよう全てのドアを養生しておきます。そうしますと海賊は必ず船橋から侵入することになります。これが大変重要です。
海賊が乗り込み始めてから船橋に侵入するまで約5分と言われていますので、兎に角1分でも30秒でも時間稼ぎが必要なのです。
また、船橋へ誘導することによって海賊の侵入路は1本に絞られ、乗組員と出くわしません。乗組員はこの時間を利用してCITADELへ速やかに避難します。乗組員一人でも取り残されるとこの取り組みは御破算になるので、堅固な養生と相当の訓練が必要となります。CITADELはステアリングルームとすることが多い。容易に破られにくいからですが、
1)さらに強固な二重ドア(ドアの内側にHbeamバリアーを設置する等)とすることが要求されます。
2)2日分(たいていの場合2日程度で救助が来る)程度の食料、飲料水の準備をしておく。
3)連絡手段の確保。衛星電話の設置は絶対条件ですが、そのアンテナをカムフラージュすることや、配線をわかりにくくしておく工夫も必要です。

ギニア湾
ギニア湾では上記のようなリスクアセスメントが確立されていない。また、非常に凶悪な海賊が出没するにもかかわらず各国の軍艦が配備されてはいませんし、民間武装警備員の手配は難しいので、民間警備会社を通じて軍を要請する。(但し、兵士は本船に同乗してくれない。) 
例えば、欧州から南下してラゴスに向かう場合、ギニア湾のペナンやナイジェリア沿岸から150mile以内の広範囲で頻発しているので、リベリアを過ぎた時点のコートジボアールから沿岸より150mile以上離してアプローチし、そこでナイジェリア軍ボートのエスコートを待つ。決して150mile内に入らない。ランデブー後は、最短距離の真北に向かって入港するコースとするなど。



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